ゲームデザインにおける「隠し」ブームの歴史

どうも、新田です。

ゲームにおける「隠れキャラ」というのをご存知でしょうか。

この概念は、ゲームがブームになった大きな要素のひとつでもあるので、ぜひ押さえておいたほうがいいと思います。

僕はゲームの歴史をリアルタイムで見てきましたが、僕の記憶では、2回ほど、大きなゲームの転換期がありました。

そしてそれは爆裂級のヒットになり、ゲーム業界が大きくなる、明らかな転換点でした。

 

ゲームにおける「隠れキャラ」の歴史の出発点は、遠藤雅伸氏がゲームデザインをした「ゼビウス」です。

隠しキャラの元祖ゼビウス

このゲームはナムコ(現バンダイナムコゲームス)のアーケードゲームですが、当時ナムコには堅実路線のAライン、実験作のBラインというのがあって、Bラインのゲームだったと聞いたことがあります。

このゼビウスは、当時としては珍しく、立体的な陰影を表現するために、少ない色数の中でグラデーション表現を採用したゲームでした。

地上の建物には影もあり、当時としては非常にリアルな表現で、美麗さを際立たせていました。

グラデーションを使った立体感のあるデザイン

ゼビウスは全16ステージですが、容量の関係か、ひとつの大きなマップの中で、縦長の16本のステージを表現していました。

ゼビウスはプレイヤーの中で噂になっていたことがありました。

それが隠れキャラである「ソル」の存在です。

ソル。これが隠れキャラの始まりだった

地上のなにもないところで、地上に打ち込むための標準が反応し、そこにブラスター(弾)を撃ち込むと、ソルがニョキニョキと出てきて、出きったところでもう1発撃ち込むと破壊でき、割と高得点だったのです。

それは当時「ニョキニョキ」などと呼ばれていました。

小学生だった僕はバッティングセンターに置いてあったそのゲームを友達に紹介され、いきなり「なんか隠れてるキャラがあるんだよ」と口コミで教えられたのを覚えています。

ゼビウスにはソル以外にも隠れキャラの「スペシャルフラッグ」や、自機が死ぬと一瞬上下反転するアニメーションがあったり、ゲームスタートして画面端に寄って地上にブラスターを撃ち込むと隠しメッセージが出たり(これは基盤コピー防止のためとのことでした)、「ジェミニ誘導」と呼ばれる点数稼ぎなどがあったりと、いろいろ話題に事欠かないゲームでした。

ソル以外の隠れキャラ「スペシャルフラッグ」

ゼビウスはその美麗さ、そして隠れキャラの存在もあってか、大ヒットしていました。

駄菓子屋にもゼビウスのテーブル筐体が置かれ、小学生がプレイしつつ、その「ニョキニョキ」を探して遊んでいました。

当時のゲーム雑誌といえば「マイコンBASICマガジン」ですが、付録の小冊子で大々的に取り上げられ、全ステージで46本あるというソルが紹介され、全国のゲームファン総出でソル探しが始まったのを体感していました。

懐かしのマイコンBASICマガジン

ナムコはその隠れキャラブームにあやかってか、すぐに「ドルアーガの塔」を作りました。

ドルアーガの塔は、全60ステージのランダム生成迷路の中でバトルを繰り返しながら、隠された宝箱を探すというゲームでした。

宝箱には足が早くなる、壁を壊せるなどのアイテムが入っていて、ゲームを有利に進められるのですが、宝箱の出し方が非常に意地悪で、ゲーセンでは新しいアイテムを手に入れているプレイヤーがいるたびに話題になり「あいつああやって宝箱出してた」と噂になっていたものです。

ドルアーガの塔。めちゃくちゃなゲームだった。が、話題になった

プレイヤーの中にはめちゃくちゃアイテムを入手し、先のステージにいる人もいて、基本的に他人との交流がないプレイヤーも、その情報欲しさに声をかけて情報交換をするようになり、友人関係が広がった、みたいな現象も起こっていました。

ドルアーガの塔の「隠し」のめちゃくちゃさはゲーセンで話題でしたが、正直まともに攻略している人は都心のコア層だけだったと思います。

秋田という地方のゲーセンでは、マイコンBASICマガジン等の雑誌で少しずつ明らかになる宝箱の出し方情報を手に入れ、やってみる、みたいな遊び方が主流でした。

ナムコはこの2大「隠し要素」ゲームで大ヒットを記録し、ゲーセンでヒットメーカーという地位を確立した感がありました。

「隠し」は、その後ナムコ以外のゲームにも大きな影響を与え、特にカプコンは「ソンソン」や「エグゼドエグゼス」等で隠しキャラを存在させたり、ナムコのゲームにたびたび登場する「スペシャルフラッグ」等を真似て、パワーアップアイテムの「Pow」や「佐吉」等のキャラを、いわゆる「スターシステム」的に出していました。


初期カプコンのシューティングゲーム「バルガス」
Powや佐吉をゲームの共通キャラにした

スターシステムとは、漫画家の手塚治虫氏が、ヒゲオヤジや田鷲警部などの登場キャラクタをまるでスター的にいろいろな作品に俳優のように登場させるシステムを指します。

このシステムは、ゲームを「このメーカーのゲームだ」と認知を進めるのに役立っていました。

ナムコはゼビウス以外にも、ギャラクシアンシリーズやパックマンシリーズを持っていたり、「ドラゴンバスター」等のヒットも出していたので、アーケードゲームを一世風靡した存在でした。

「隠し」はその後ファミコンゲームにも波及し、当時一番売れていたファミコン雑誌「ファミリコンピュータマガジン」(ファミマガ)でも、「隠れキャラ」「裏技」「ウルテク」コーナーができるほど、人気の要素でした。


ファミリーコンピュータマガジン

ファミコンゲームでは、ナムコ、カプコンだけにとどまらず、コナミ等の現大手のゲームも積極的に「隠れキャラ」をゲームの中に入れ込んでいたと思います。

PCゲームでも、「テグザー」にアニメ「マクロス」のチャイナドレスのリン・ミンメイの隠しキャラが出たり、影響が広がっていました。


テグザーの隠れキャラのチャイナ服のリン・ミンメイ

それだけこの「隠し」は、ゲームを作るうえで、大きなヒット要素だった、と言えます。

この「隠し」があるだけで、ゲームの攻略、制覇に幅が出るからです。

ゲームをクリア後も、この「隠し」を求めてゲームはプレイされていました。

「隠し」とはちょっと違う流れではありますが、PCゲーム「ウィザードリィ」の敵を倒してのアイテムドロップも「隠し」と似て非なる要素です。

「ウィザードリィ」では、レアなアイテムを求めて、ゲームクリアをせずにレアアイテム探しを求めて延々とゲームがプレイされました。


アイテムドロップ沼の元祖、ウィザードリィ

今で言えば「LTV(Life time value:生涯顧客価値。要するにプレイヤーが1つのゲームに対してどれだけお金を落とすか)」というKPI(Key performance indicator:収益の鍵になる指標)を爆上げさせる要素だったわけです。

この概念は、今ではハック・アンド・スラッシュという、いわゆる「ディアブロ」系の、敵を倒すと確率でレアアイテムが得られるというジャンルにまで昇華されています。


ハック・アンド・スラッシュの元祖、ディアブロ

ソシャゲには「ガチャ」という、課金を加速させる要素がありますが、これもこの「隠し」に似て非なる要素です。

さて、ナムコはその後、「隠し」の要素を持ったゲームをしばらく出していませんでしたが、1984年に「パックランド」という、「隠し要素を見つけることがゲームの進行に必要になる」ゲームを出しました。


パックランド。とある消火栓を左に押すと・・・

このゲームは横スクロールのアクションゲームですが、スクロール方向とは逆に障害物を押すと、ヘルメットやジャンプブーツ等、プレイを楽にするアイテムが出現するゲームでした。

「隠し」をゲームのメイン進行に寄せていくというアプローチをしたゲームで、完全にこの「隠し」という要素を意識し、ゲーム全体に盛り込もう、という意欲的な作品でした。

これ以前にも「リブルラブル」という、2本のジョイスティックで領域を囲み、宝箱を探すゲームもありましたが、これも「隠し」を強く意識したゲームでした。

しかし、「パックランド」はそれほどヒットに繋がらず、まだまだ「隠し」の組み込みの幅が弱かったのではないかと思います。

この「パックランド」からインスピレーションを受けて作られたのが、全世界に空前の大ヒットを巻き起こした「スーパーマリオブラザーズ」です。

ちなみにファミコンの発売日は1983年、パックランドは1984年で、「スーパーマリオブラザーズ」の発売日は1985年なので、個人的見解では、ファミコン発売後のキラータイトルを企画していた宮本茂氏が、「パックランド」の不発を参考に「隠し」要素を練り上げた、のではないかと思っています。


スーパーマリオブラザーズ。デカマリオだとブロックを壊せる

それほど、「隠し」要素はゲーム業界に影響を与えていましたし、「パックランド」が「隠し」を昇華させようとしていたことは、宮本茂氏にとっては、大きなヒントになったと思います。

「スーパーマリオブラザーズ」は、「隠し」が非常に大きくゲームに組み込まれていました。

・入れる土管を探してのコインGET

・ブロックの中にあるコインブロック探し

・ステージ移動部屋の発見

・1upキノコが隠された、透明ブロックの発見

ジャンプアクションという要素がメインではありますが、チビマリオとデカマリオへの変身というゲーム性のスイッチも、「隠し」に大きく貢献していました。

というのも、デカマリオでないとブロックが壊せないので、チビマリオの状態でブロックを見過ごすと、「デカマリオであそこに行ってブロックを探らなくては」という、繰り返し遊ぶ動機づけになっていたのです。

また、1upキノコが出る透明ブロックの存在は、「ゲームの空間全体が探索対象になる」という、ゲームのLTVを爆上げする、非常に大きな発明だったと思います。

この「隠し」のゲーム全体への昇華は、スーパーマリオブラザーズシリーズでさらに拡張され、任天堂のゲームハードが出れば、さらに新しい「隠し」が拡張されたスーパーマリオが出るという歴史を辿ってきました。

まさに「隠し」は、任天堂を世界企業として一流にした、重要なゲーム要素だと言えるでしょう。

この「隠し」は、任天堂のヒットシリーズである「ゼルダ」や「メトロイド」にも当然のように組み込まれています。

「ゼルダ」では、当時流行っていたRPG的アプローチでゲーム全体に「隠し」が組み込まれ、新しいアイテムを入手すれば、隠されたダンジョンを見つけることができる・・・という内容です。


ゼルダの伝説。隠しがふんだんに組み込まれている

またダンジョンに入ってからも、マップから推測できる隠し部屋を爆弾で見つけて、そこで重要なアイテム  を見つけるという要素もあり、「やっぱりここにあった!」と声に出してしまうような、隠されたものを暴く楽しみが組み込まれていました。

「メトロイド」では、「隠し」からのインスピレーションのような「入れ子」構造がシステムに組み込まれています。

ある武器を手に入れると、それを使うことで特定のドアを開けることができるようになります。

そのドアは各場所に散らばっており、プレイヤーはその「開けるられるドア」を全部開けるべく、ダンジョン内を行ったり来たりすることになるわけです。


入れ子の攻略構造を持ったゲーム、メトロイド

任天堂は、「ゼルダ」もそうですが、マップを何度も行き来させるという、「素材作成コストの低減」を図るシステムを考えるのも得意です。

通常RPG等であれば、ゲームを終わりまで進めるために、フィールドを作り込みますが、何度も行き来するような作りにすれば、素材の数が少なくて済むというわけです。

これは、「PUBG」も似たようなコスト削減システムです。

1つの島マップのスタートと終わりさえ変えてしまえば、プレイヤーは1つの島マップで異なるシチュエーションを何度でも楽しめるからです。
(PUBGの場合は対戦ゲームなので、スタンドアロンのゲームとは比べられないかもですが)

任天堂は「マリオ」「ゼルダ」「メトロイド」というシリーズすべてで、「隠し」を活用し、またその方向性を変えて応用し、組み込んでいます。

ナムコのゼビウスから始まった「隠し」要素を昇華し、拡大して、最もうまく活用した会社と言えるでしょう。

 

ということで、「隠し」の歴史を紐解いてきました。

「隠し」はまだまだ拡張できますし、うまく使えるゲーム要素です。

このようなゲーム的にも面白く、素晴らしいシステムの発明は、まだほかにも存在していますが、それについてはまた別の機会にお伝えできればと思います。

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